【初心者でもわかるISO9001:2015】要求事項「4 組織の状況」を解説!

要求事項の箇条4 組織の状況では、顧客満足を獲得し顧客に価値を提供するために、組織が置かれている状況及び顧客を含めた利害関係者の要求を幅広く把握し、それらを基に、組織がビジョン、理念などを踏まえつつ自らの意思で、対象顧客、提供する製品及びサービスを明確にすることを求めています。さらに、製品及びサービスを管理する仕組みとしてのマネジメントシステムの境界を定めた上で、品質マネジメントシステムを構築する必要もあります。

箇条4.1から箇条4.3では、品質マネジメントシステムを構築するための前提条件、品質マネジメントシステムの境界の明確化を、箇条4.4では、品質マネジメントシステム構築の段階別要求を規定しています。

次からは、各箇条の具体的内容について解説していきます!

4.1 組織及びその状況の理解

 要求事項「4.1 組織及びその状況の理解」の内容は以下のとおりです。

4.1 組織及びその状況の理解
 組織は,組織の目的及び戦略的な方向性に関連し,かつ,その品質マネジメントシステムの意図した結果を達成する組織の能力に影響を与える,外部及び内部の課題を明確にしなければならない。 

 組織は,これらの外部及び内部の課題に関する情報を監視し,レビューしなければならない。 

  注記1 課題には,検討の対象となる,好ましい要因又は状態,及び好ましくない要因又は状態が含まれ得る。 

  注記2 外部の状況の理解は,国際,国内,地方又は地域を問わず,法令,技術,競争,市場,文化,社会及び経済の環境から生じる課題を検討することによって容易になり得る。 

  注記3 内部の状況の理解は,組織の価値観,文化,知識及びパフォーマンスに関する課題を検討することによって容易になり得る。

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箇条4.1の概要

箇条4.1では、企業が直面する経営環境と経営課題を深く理解した上で、品質マネジメントシステム(QMS)を設計し、実施することが求められています。自社の問題課題を明確にすることで、うわべだけの品質マネジメントシステムの設計を避け、実際の経営課題に対応するための実効性のある手段として欲しいということでしょう。

「組織の目的及び戦略的な方向性」の意味

箇条4.1の冒頭にある「組織の目的及び戦略的な方向性」は、社是、ビジョン、中期経営計画、中期目標などの比較的中長期的なものを示しています。

一般的に社是やビジョンは具体性に欠ける場合が多いので、品質マネジメントシステムの作成時には、組織が進むべき方向を具体的に理解するために、3〜5年程度を規定した中期経営計画や中期達成目標などを参照すると進めやすい場合が多いです。

「品質マネジメントシステムの意図した結果」の意味

箇条4.1に記述される「品質マネジメントシステムの意図した結果」とは、提供している製品及びサービスが顧客要求事項を満たし、関連する法令・規要求事項を満たし、顧客満足を実現し続ける状況を指しています。

簡単に言うと、良い結果が得られていて、それが品質マネジメントシステムを正しく構築し運用していることによるものである状況を指します。結果とプロセスの両方をおさえることで、将来もさらに良い成果を期待できるということですね。

「外部及び内部の課題」の意味、例

箇条4.1では、「外部及び内部の課題」の明確化を要求しています。この箇条でいう外部、内部の課題とは、直近直面している具体的に解決すべき事項だけでなく、3年から5年程度の中長期に解決すべき課題を含んだものとなります。

なお、ここで明確にした外部・内部の課題は、箇条6 計画で考慮されます。

ISO9001でいう課題とは、「品質マネジメントシステムに対して、何らかの影響を与えそうなもの」です。具体的に外部の課題、内部の課題にどのようなものが当てはまるのか、以下にいくつか例を紹介します。

外部の課題の例
・競合他社が自社よりも付加価値の高い新製品をリリース
・法改正で、これまでの製造工程が維持できない
・AIの活用で参入障壁が低くなり、競争が激化
※外部の課題には、競合組織との製品・サービスの比較に基づく克服すべき課題なども含まれます

内部の課題の例
・社内設備の老朽化
・新人の定着率が悪化し、従業員の高齢化が進んでいる
・人材の入れ替わりが激しく、技術継承が困難
※内部の課題には、組織が提供すべきより高い水準の製品・サービスを実際に提供できるようにするための目的も含まれます

「課題に関する情報の監視、レビュー」の意味

箇条4.1では、「外部及び内部の課題に関する情報を監視し,レビューしなければならない」との要求もありますが、この内容はこの後の箇条で対応することになります。

監視については、「9.1 監視、測定、分析及び評価」の箇条9.1.1で要求されています。また、レビューについては、「9.3 マネジメントレビュー」の箇条9.3.2 bで要求されています。

4.2 利害関係者のニーズ及び期待の理解

 要求事項「4.2 利害関係者のニーズ及び期待の理解」の内容は以下のとおりです。

4.2 利害関係者のニーズ及び期待の理解 

 次の事項は,顧客要求事項及び適用される法令・規制要求事項を満たした製品及びサービスを一貫して提供する組織の能力に影響又は潜在的影響を与えるため,組織は,これらを明確にしなければならない。 

a) 品質マネジメントシステムに密接に関連する利害関係者

b) 品質マネジメントシステムに密接に関連するそれらの利害関係者の要求事項 

 組織は,これらの利害関係者及びその関連する要求事項に関する情報を監視し,レビューしなければならない。

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箇条4.2の概要

箇条4.2では、顧客を含む利害関係者とそのニーズ及び期待(要求事項)を明確にしておくことを求められています。

箇条4.1と内容が似ているため、この2つは一体として考えるとISO9001に対する理解が進みやすかと思います。

なお、明確にした利害関係者及びその関連する要求事項は箇条4.1で明確にした課題とともに、6 計画においての考慮事項となり品質マネジメントシステム構築の前提条件の一つとなります。

「利害関係者」の意味、例

箇条4.2で明確にすることを求められている利害関係者とは、組織が何らかの形で利害がある組織や人のことです。

自社製品やサービスを需要する顧客等だけでなく、製品の製造過程で重要な役割を担う従業員等の供給側も含めます。

どのような組織や人が利害関係者になりうるのか、以下にいくつか例を紹介します。

利害関係者の例
・顧客
・従業員
・行政
・仕入先
・外注先
・金融機関
・株主

「一貫して提供する」の意味

箇条4.2の「一貫して提供する」という記述は、顧客が求める条件や法律・規則が要求する条件を満たした製品やサービスを、安定して継続的に提供することを意味しています。これを実現するために、製品やサービスの開発の初期段階から提供に至るまでの全過程で、関係者のニーズや期待をきちんと理解し、それに応えることが必要だということですね。

「利害関係者の要求事項」の意味、例

箇条4.2で記述される「利害関係者の要求事項」とは、利害関係者の持つニーズや期待のことです。利害関係者がどのようなニーズを持ちどんな期待をしているのかを明確しそれらを考慮することで、組織の持続可能性に対するリスクを低減することができます。

利害関係者の要求事項としてどのようなものが考えられるでしょうか。以下にいくつか例を紹介します。

利害関係者の要求事項の例
・顧客からのコストダウン要求
・現場(従業員)からの人員増員要望
・委託業者からの報酬増の要求
・顧客からの短納期要望
・金融機関からのコンプライアンス管理体制の厳格化要求

「利害関係者及びその関連する要求事項に関する情報を監視・レビュー」の意味

箇条4.2では、「組織は,これらの利害関係者及びその関連する要求事項に関する情報を監視し,レビューしなければならない。」との要求もありますが、この内容はこの後の箇条で対応することになります。

利害関係者の要求は箇条9.1.1に従って監視され、箇条9.3.2.c)の顧客満足、利害関係者からのフィードバックにおいてレビューする必要があります。

4.3 品質マネジメントシステムの適用範囲の決定

 要求事項「4.3 品質マネジメントシステムの適用範囲の決定」の内容は以下のとおりです。

4.3 品質マネジメントシステムの適用範囲の決定 

 組織は,品質マネジメントシステムの適用範囲を定めるために,その境界及び適用可能性を決定しなければならない。 

 この適用範囲を決定するとき,組織は,次の事項を考慮しなければならない。 

a) 4.1に規定する外部及び内部の課題 

b) 4.2に規定する,密接に関連する利害関係者の要求事項 

c) 組織の製品及びサービス 

 決定した品質マネジメントシステムの適用範囲内でこの規格の要求事項が適用可能ならば,組織は,これらを全て適用しなければならない。 

 組織の品質マネジメントシステムの適用範囲は,文書化した情報として利用可能な状態にし,維持しなければならない。適用範囲では,対象となる製品及びサービスの種類を明確に記載し,組織が自らの品質マネジメントシステムの適用範囲への適用が不可能であることを決定したこの規格の要求事項全てについて,その正当性を示さなければならない。 

 適用不可能なことを決定した要求事項が,組織の製品及びサービスの適合並びに顧客満足の向上を確実にする組織の能力又は責任に影響を及ぼさない場合に限り,この規格への適合を表明してよい。

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箇条4.3の概要

箇条4.3では、品質マネジメントシステムの適用範囲、つまり、ISO9001で管理する範囲を明確にしておくことを求められています。

ISOを取り入れるにあたって、まず決めなければならないことの1つがこの「適用範囲」です。

会社全体で設定するだけでなく、1つの拠点や部署で設定するパターンもありますので、確りと理解したうえで、設定しましょう。

適用範囲の意味

適用範囲とは、品質マネジメントシステムの意図した結果を達成する並びに規制要求事項を満たした製品及びサービスを一貫して提供する、組織の能力に影響を与える領域を網羅し、かつ、組織の権限が及ぶ範囲です。該当する製品及びサービス、プロセス、設備及び所在地などで規定されます。一言でいうと「ISO9001で管理する範囲」ですね。

適用範囲は、主に以下の2種類で設定することとなります。

  • 本社、支店、工場といった地理的範囲
  • 製品やサービスの範囲

地理的範囲では、本社のみ、xx支店のみやxx工場のみを適用範囲にするなどとします。

製品やサービスの範囲では、例えば「xx部品の加工・組立」など、製品名やサービス名が明確にわかる事業内容にして設定します。

規格の要求事項があてはまらない例

ISO9001規格の一部要求事項があてはまらない場合もあります。

例えば、設計機能がなく製造機能だけを有している組織のような場合です。この場合、箇条8 設計・開発の要求事項は適用したくても適用できず、設計・開発の要求事項を適用しなくても組織の能力には影響しないといえます。

このような場合には、「○○のため〇項は適用除外とする」など明記することで、一部要求事項を適用除外とすることもできます。

「文書化した情報として利用可能」の意味

箇条4.3では、「組織の品質マネジメントシステムの適用範囲は,文書化した情報として利用可能な状態にし,維持しなければならない。」と記述されています。「文章化した情報」は箇条7.5で設定しますが、データでも問題ありません。また、「利用可能な状態」とは、関係者が欲しいときにすぐに手に入る状態をいいます。

本箇条で設定した適用範囲は、何らかの形で証跡を残し、すぐに確認できるようにしておく必要があるということですね。

4.4 品質マネジメントシステム及びそのプロセス

 要求事項「4.4 品質マネジメントシステム及びそのプロセス」の内容は以下のとおりです。

4.4 品質マネジメントシステム及びそのプロセス 

4.4.1 組織は,この規格の要求事項に従って,必要なプロセス及びそれらの相互作用を含む,品質マネジメントシステムを確立し,実施し,維持し,かつ,継続的に改善しなければならない。 

 組織は,品質マネジメントシステムに必要なプロセス及びそれらの組織全体にわたる適用を決定しなければならない。また,次の事項を実施しなければならない。 

a) これらのプロセスに必要なインプット,及びこれらのプロセスから期待されるアウトプットを明確にする。 

b) これらのプロセスの順序及び相互作用を明確にする。 

c) これらのプロセスの効果的な運用及び管理を確実にするために必要な判断基準及び方法(監視,測定及び関連するパフォーマンス指標を含む。)を決定し,適用する。 

d) これらのプロセスに必要な資源を明確にし,及びそれが利用できることを確実にする。 

e) これらのプロセスに関する責任及び権限を割り当てる。 

f) 6.1の要求事項に従って決定したとおりにリスク及び機会に取り組む。 

g) これらのプロセスを評価し,これらのプロセスの意図した結果の達成を確実にするために必要な変更を実施する。 

h) これらのプロセス及び品質マネジメントシステムを改善する。 

4.4.2 組織は,必要な程度まで,次の事項を行わなければならない。 

a) プロセスの運用を支援するための文書化した情報を維持する。 

b) プロセスが計画どおりに実施されたと確信するための文書化した情報を保持する。

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箇条4.4の概要

箇条4.4では、ISO9001の規格に従ってプロセスを確立し、そのプロセスの相互作用を示すことを求められています。

4.4.1ではaからhまで8個、4.4.2ではa,bの2個の要求が挙げられており、非常に難解に感じますが、こちらはこの後の箇条5以降で具体的に対応していくものを、先にまとめたものだと把握すると理解しやすいかと思います。

とはいえ、この4.4.1が外部審査されないわけではありませんので、概要の把握は必要です。

まずは、aからcまでを見てみましょう。これらは一つのグループと考えても良く、プロセスの明確化とその管理に焦点を当てています。具体的には、プロセスアプローチについて言及していて、これは製品やサービスの提供に必要な一連の業務や作業を特定し、それぞれの業務で何を基にどのような成果物を生み出すか、その成果物を作るためにはどんなスキル、設備、方法が必要か、そしてどの程度の品質が求められるかを定め、それに従って業務を遂行することを意味します。簡単に言うと、適当に仕事をして最終検査で不良品を除外するのではなく、各工程で品質を確実に構築することが求められています。「品質は工程で作り込む」という製造業での原則が、これに当てはまります。実際には、このプロセスアプローチを自社の業務フローとして品質保証体系図にまとめることが一つの方法です。

次に、d)では必要な資源の確保について言及されています。これは人的、物理的、財務的、情報的な経営資源を準備することを指しており、規格の後の部分である箇条7「支援」でさらに詳しく説明されます。e)では、各プロセスや業務を行う人に対して責任と権限を与えることが指示されており、これは箇条5.3で具体的に要求されます。f)のリスクと機会への対応は箇条6.1に関連し、g)のプロセスの監視と評価は箇条9.1、そしてh)の改善は箇条10で取り扱われます。このように、aからhまでの内容は、ISO9001の他の箇条への導入として機能しています。

「必要な程度の文章化した情報」の意味

箇条4.4.2では、必要な程度の文書化した情報を維持・保持することを求めています。

一般に文書化をする際、どの程度文書化したらよいかが問題になります。この要求事項には、プロセスの運用を支援するのに必要な程度、計画どおりに実施されたと確信するために必要な程度とあります。基本原則は、品質の確証に必要かどうかであり、文章化がどの程度必要かどうかは組織が判断します。文書化には、情報交換のツール、知識の共有、及び存在、実施、内容等の証明の機能があり、これらを考慮した上で文書化の程度を決定するのが良いといえます。言い換えると、その文書化した情報がないとプロセスの運用が支援できない、計画どおりの実施が信頼できないというものを準備すると良いといえます。

「確立、実施、維持、継続的改善」の意味

確立、実施、維持、継続的改善は、この規格の中でシステムの構築に関連してたびたび要求されます。確立(establish)とは、対象を運用できるような設計、準備であり、実施(implement)とは、先に決めたおとりに実際に運用すること、維持(maintain)とは、目的が継続的に達成し得るように処置をすることであり、継続的改善(continual improvement)とは状況に応じて必要な処置をとり、結果を継続的に向上させることを指します。これらはシステムの構築、運用に関する主要な要素ですので、頭に入れておきましょう。

さいごに

ISO9001は、顧客満足の向上と組織の持続的な改善が行うことができるシステムです。ISO9001をうまく活用することで、企業や組織はその競争力を高めることができるでしょう。

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