【初心者でもわかるISO9001:2015】要求事項「6 計画」を解説!

ISO9001の要求事項の箇条6「計画」では、品質マネジメントシステム(以下、QMS)のPDCAサイクルの計画(=Plan)を作ることを求めています。

具体的には、QMSの品質方針と目標を達成するために、どのように計画を立てるべきかが述べられています。

また、計画を立てることで、組織は予期しない障害を回避し、リソースの有効利用が可能になります。

そのため、計画段階では、下記の3要素を考慮します。

  • 「6.1リスク及び機会への取組み」
  • 「6.2 品質目標及びそれを達成するための計画策定
  • 「6.3 変更の計画」(マネジメントシステムを変更する際の計画)

次からは、各箇条の具体的内容について解説していきます。

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6.1 リスク及び機会への取組み

 要求事項「6.1 リスク及び機会への取組み」の内容は以下のとおりです。

6.1.1 品質マネジメントシステムの計画を策定するとき,組織は,4.1 に規定する課題及び4.2 に規定する要求事項を考慮し,次の事項のために取り組む必要があるリスク及び機会を決定しなければならない。
a) 品質マネジメントシステムが,その意図した結果を達成できるという確信を与える。
b) 望ましい影響を増大する。
c) 望ましくない影響を防止又は低減する。
d) 改善を達成する。

6.1.2 組織は,次の事項を計画しなければならない。
a) 上記によって決定したリスク及び機会への取組み
b) 次の事項を行う方法
 1) その取組みの品質マネジメントシステムプロセスへの統合及び実施(4.4 参照)
 2) その取組みの有効性の評価

リスク及び機会への取組みは,製品及びサービスの適合への潜在的な影響と見合ったものでなければならない。
注記1 リスクへの取組みの選択肢には,リスクを回避すること,ある機会を追求するためにそのリスクを取ること,リスク源を除去すること,起こりやすさ若しくは結果を変えること,リスクを共有すること,又は情報に基づいた意思決定によってリスクを保有することが含まれ得る。
注記2 機会は,新たな慣行の採用,新製品の発売,新市場の開拓,新たな顧客への取組み,パートナーシップの構築,新たな技術の使用,及び組織のニーズ又は顧客のニーズに取り組むためのその他の望ましくかつ実行可能な可能性につながり得る。

JIS Q 9001:2015

QMSにおいては、目標を達成する上で阻害要因となるリスクにきちんと対処し、良い影響のある機会は活かす必要があります。

次章からは箇条6.1.1、6.1.2に分けて解説します。

【解説】箇条6.1.1

まず、箇条6.1.1の内容は下記の通りです。

6.1.1 品質マネジメントシステムの計画を策定するとき,組織は,4.1 に規定する課題及び4.2 に規定する要求事項を考慮し,次の事項のために取り組む必要があるリスク及び機会を決定しなければならない。
a) 品質マネジメントシステムが,その意図した結果を達成できるという確信を与える。
b) 望ましい影響を増大する。
c) 望ましくない影響を防止又は低減する。
d) 改善を達成する。

JIS Q 9001:2015

この箇条では、QMSの計画に関連するリスクと機会を特定することを指示しています。
(リスクと機会を定義するだけで、この箇条ではアクションの検討は含まれていません。

また、この際、ただやみくもにリスクと機会を考えるのではなく、組織が直面する内外の課題と、顧客をはじめとする利害関係者の要求を考慮することを要求しています。

リスクと機会とは

箇条6.1.1で言っているリスクと機会とは果たして何を指すのでしょうか。詳しく見てみましょう。

リスクとは
リスクは、ISO9001では「不確さの影響」と定義されています。
つまり、事業環境の変化や設備の異常など、発生するかしないか分からない現象が、QMSに及ぼす影響だと考えて良いでしょう。何か悪いことが起こるリスクだけでなく、良い機会を逃すリスクも含まれます。
ISOではリスクを特定し、可能な限りリスクを小さくするための対策を計画することを求めています。

機会とは
機会は、「目的を達成するのによい状況や時期」だと定義されています。
例えば、規制緩和による市場の拡大,設備更新など、取り組めば目的達成に近づくことを意味します。
ISO9001では、組織がこうした機会を特定し、計画的に活用することをすすめています。

一般的に考えても、計画を作成する上で、リスクを小さくして機会を活かすことは当然ともいえますね。

4.1 に規定する課題とは

上記のリスクと機会を特定する上では、「4.1 に規定する課題及び4.2 に規定する要求事項を考慮し,」と指示されています。

4.1は「内部及び外部の課題」、4.2は「利害関係者の要求事項」を指します。

まず4.1を詳しく見てみましょう。

この箇条でいう外部、内部の課題とは、直近直面している具体的に解決すべき事項だけでなく、3年から5年程度の中長期に解決すべき課題を含んだものとなります。

ISO9001でいう課題とは、「品質マネジメントシステムに対して、何らかの影響を与えそうなもの」です。具体的に外部の課題、内部の課題にどのようなものが当てはまるのか、以下にいくつか例を紹介します。

外部の課題の例
・競合他社が自社よりも付加価値の高い新製品をリリース
・法改正で、これまでの製造工程が維持できない
・AIの活用で参入障壁が低くなり、競争が激化
※外部の課題には、競合組織との製品・サービスの比較に基づく克服すべき課題なども含まれます

内部の課題の例
・社内設備の老朽化
・新人の定着率が悪化し、従業員の高齢化が進んでいる
・人材の入れ替わりが激しく、技術継承が困難
※内部の課題には、組織が提供すべきより高い水準の製品・サービスを実際に提供できるようにするための目的も含まれます

4.2 に規定する要求事項とは

次に、箇条4.2で明確にすることを求められている利害関係者とは、組織が何らかの形で利害がある組織や人のことです。

自社製品やサービスを需要する顧客等だけでなく、製品の製造過程で重要な役割を担う従業員等の供給側も含めます。

どのような組織や人が利害関係者になりうるのか、以下にいくつか例を紹介します。

利害関係者の例
・顧客
・従業員
・行政
・仕入先
・外注先
・金融機関
・株主

「4.1 に規定する課題及び4.2 に規定する要求事項を考慮」とは

4.1 に規定する課題及び4.2 に規定する要求事項を考慮してリスク及び機会を決定する」とは
「組織の内部でAという課題があるので、A-1というリスクが生まれる可能性がある」
「顧客の要求がBのように変化しているため、B-1という機会が生まれる可能性がある。」

というように、「内部及び外部の課題」「利害関係者の要求事項」➡リスク・機会の順に導出することを指します。

リスク及び機会に取り組む」目的(a~d)

リスク及び機会への取り組みは、主に下記を目的として行います。下記は読んでの通りだと思います。

a) 品質マネジメントシステムが,その意図した結果を達成できるという確信を与える。
b) 望ましい影響を増大する。
c) 望ましくない影響を防止又は低減する。
d) 改善を達成する。

JIS Q 9001:2015

たとえばISO9001で考えると、QMSの目標を達成(a)する上で、「顧客満足向上」のような望ましい影響がどうすれば増大するか(b)を考え、望ましくない影響(品質低下や不適合製品の増加)を低減(c)していき、品質マネジメントシステムに取り組むことで業務改善を達成(d)する、ということです。

「(品質マネジメントシステムの)意図した結果」とは、提供している製品及びサービスが顧客の要求や関連する法令・規要求事項を満たし、顧客満足を実現し続ける状況を指しています。

【解説】箇条6.1.2

次に、箇条6.1.2の内容を見てみましょう。

6.1.2 組織は,次の事項を計画しなければならない。
a) 上記によって決定したリスク及び機会への取組み
b) 次の事項を行う方法
 1) その取組みの品質マネジメントシステムプロセスへの統合及び実施(4.4 参照)
 2) その取組みの有効性の評価

リスク及び機会への取組みは,製品及びサービスの適合への潜在的な影響と見合ったものでなければならない。
注記1 リスクへの取組みの選択肢には,リスクを回避すること,ある機会を追求するためにそのリスクを取ること,リスク源を除去すること,起こりやすさ若しくは結果を変えること,リスクを共有すること,又は情報に基づいた意思決定によってリスクを保有することが含まれ得る。
注記2 機会は,新たな慣行の採用,新製品の発売,新市場の開拓,新たな顧客への取組み,パートナーシップの構築,新たな技術の使用,及び組織のニーズ又は顧客のニーズに取り組むためのその他の望ましくかつ実行可能な可能性につながり得る。

JIS Q 9001:2015

この箇条では、6.1.1で特定(決定)したリスクと機会に対し、具体的な取組を計画することを指示しています。
前の箇条ではアクションの検討は含まれていませんでしたね。

また、この際、ただやみくもに取り組み内容を決めるのではなく、QMSへの落とし込みや、その有効性を評価することが定められています。

「その取組みの品質マネジメントシステムプロセスへの統合及び実施」とは、計画した取り組みはQMSにきちんと関連する形で落とし込んでくださいね、ということです。

組織では、製品・サービスの問合せや見積もりの依頼から、製品・サービスの提供完了まで、企画や開発、カスタマーサービスなど複数工程があるため、QMSの取組みを各業務プロセスに適切に落とし込み、PDCAを回すための計画を立てます。

「その取組みの有効性の評価」とは、取組みが上手くいったかどうかの判断をできるように、予め基準やその評価方法を決めておく、ということです。やりっぱなしでは許されず、PDCAのC(チェック機能)を重視するところがISOの特徴です。

6.2 品質目標及びそれを達成するための計画策定

要求事項「6.2 品質目標及びそれを達成するための計画策定」の内容は以下のとおりです。

6.2.1 組織は,品質マネジメントシステムに必要な,関連する機能,階層及びプロセスにおいて,品質目標を確立しなければならない。
品質目標は,次の事項を満たさなければならない。
a) 品質方針と整合している。
b) 測定可能である。
c) 適用される要求事項を考慮に入れる。
d) 製品及びサービスの適合,並びに顧客満足の向上に関連している。
e) 監視する。
f) 伝達する。
g) 必要に応じて,更新する。
組織は,品質目標に関する文書化した情報を維持しなければならない。

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6.2.2 組織は,品質目標をどのように達成するかについて計画するとき,次の事項を決定しなければならない。
a) 実施事項
b) 必要な資源
c) 責任者
d) 実施事項の完了時期
e) 結果の評価方法

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次章からは箇条6.2.1、6.2.2に分けて解説します。

【解説】箇条6.2.1

まず、箇条6.2.1ですが、QMSに関連する組織内の品質目標の要件について述べられています。

6.2.1 組織は,品質マネジメントシステムに必要な,関連する機能,階層及びプロセスにおいて,品質目標を確立しなければならない。
品質目標は,次の事項を満たさなければならない。
a) 品質方針と整合している。
b) 測定可能である。
c) 適用される要求事項を考慮に入れる。
d) 製品及びサービスの適合,並びに顧客満足の向上に関連している。
e) 監視する。
f) 伝達する。
g) 必要に応じて,更新する。
組織は,品質目標に関する文書化した情報を維持しなければならない。

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品質目標はやみくもに定めるのではなく、上記a~gの事項を満たしている必要があります。

「関連する機能,階層及びプロセス」とは

機能とは、営業部、人事部などの組織内の部門を指します。

階層とは、社長、部長、課長、係長、一般社員など、組織内の指揮命令系統を指すと考えて良いでしょう。

プロセスは、その企業の企画、生産、営業などの、製品やサービスの提供が完了するまでの事業活動のことです。

「品質目標」とは

品質目標は、品質に関する目標を指します。例えば下記のようなものです。

品質目標の例
・有資格者数増加
・作業工数削減
・不良率低減
・納期短縮
・仕入れコスト削減
・無事故無災害の達成

繰り返しになりますが、これらの目標は下記a~gの要件を満たす必要があります。

特に目標設定時には「b)測定可能である」が抜けがちですので、できるだけ定量的な目標となるよう注意しましょう。
(上記の例は全て、XX人、XX%、XX回、XX円、XX日など、数値で表すことができる目標です)

a) 品質方針と整合している。
b) 測定可能である。
c) 適用される要求事項を考慮に入れる。
d) 製品及びサービスの適合,並びに顧客満足の向上に関連している。
e) 監視する。
f) 伝達する。
g) 必要に応じて,更新する。

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例えば、「作業場の清掃を徹底する」などは測定が難しい目標となります。
(これが、a)品質方針との整合などを満たしているかどうかは置いておいて。)

この場合、「作業場の清掃回数の増加」などがまだ望ましいでしょう。

【解説】箇条6.2.2

次に6.2.2です。この箇条では、6.2.1で決めた品質目標について、どのように達成するかの達成計画を作成するように求めています。a)~e)は計画に盛り込む内容です。

6.2.2 組織は,品質目標をどのように達成するかについて計画するとき,次の事項を決定しなければならない。
a) 実施事項
b) 必要な資源
c) 責任者
d) 実施事項の完了時期
e) 結果の評価方法

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ISOの監査時において必ずしも文書化しておく必要はありません。

ただ、内容やボリュームに鑑みても口伝えでは到底作成・共有が難しいですよね。。

a)実施事項

目標達成のためには、具体的な行動計画が必要です。たとえば、顧客単価の向上やアウトソーシング先の見直しなど、重要な活動を特定し、計画に反映させることが大切です。

b)必要な資源

目標を達成するために必要な資源(リソース)を特定します。従業員などの人的リソースの再配置や、工業用ロボットや旋盤加工機などの新たな設備投資、ソフトウェア導入などのIT化を含みます。
適切な資源配分が計画の成功を左右します。

c)責任者

各目標に対する責任者を明確にし、役割を分担します。例えば、営業部が顧客単価向上を、総務部がアウトソーシング先の見直しを担当するなど、部門ごとの責任を明確にすることが効果的です。

d)実施事項の完了時期

各行動計画の完了期限を設定します。期限を具体的にすることで、進捗を明確に追跡しやすくなり、計画の透明性が保たれます。

e)結果の評価方法

実施後の評価は、PDCAサイクルに則って行います。6.1.1の「有効性の評価」と同じく、取組みが上手くいったかどうかの判断をできるように、予め基準やその評価方法を決めておく、ということです。
例えば、「顧客単価の向上」は営業部の年間資料から算出する、「アウトソーシング先の見直し」はコスト削減や納期短縮につながったのか、という視点で評価基準や評価方法をあらかじめ決定しておきます。

6.3 変更の計画

計画の最後は6.3「変更の計画」です。

組織が品質マネジメントシステムの変更の必要性を決定したとき,その変更は,計画的な方法で行わなければならない(4.4 参照)。
組織は,次の事項を考慮しなければならない。
a) 変更の目的,及びそれによって起こり得る結果
b) 品質マネジメントシステムの“完全に整っている状態”(integrity)
c) 資源の利用可能性
d) 責任及び権限の割当て又は再割当て

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「変更の計画」では、QMSの仕組み(手順やルール)を変更する場合の指針について書かれています。

変更が必要になる理由は様々ですが、新しい技術の導入、市場の要求の変化、または内部プロセスの改善などが考えられます。

重要なのは、このような変更を行う際、慎重に計画を立てることです。変更したことで他の業務や部門に負担がかかったり、悪影響を及ぼさないように計画的に行う必要があります。

その際、元々保有している社内資源(人、設備、情報、資金など)で対応できるか、責任者や担当者の配置を変更する必要がないか、を考慮するように求めています。

変更時に考慮すべき事項(a~d)

下記にてa~dを補足します。

a) 変更の目的とその結果

変更をする目的は、たとえば新しい技術を取り入れたり、より効率的な方法で仕事をするためです。これによって組織がもっと良く動くようになりますが、変更する過程で一時的に混乱が起こることもあります。
そのため、何を変えるのか、その変更がもたらす良い点や悪い点をよく考えることが重要です。

b) 品質マネジメントシステムの“完全に整っている状態”

品質マネジメントシステム(QMS)とは、会社が品質を保ち、顧客の期待に応えるためのルールや手順です。このシステムが「完全に整っている状態」とは、すべての部分がうまく機能している状態を意味します。
変更を計画する際は、この整った状態をどのようにすれば保つことができるのか、気をつけながら、必要な調整を行います。

c) 資源の利用可能性

変更を実施するためには、人手、資金、技術、設備、情報など、さまざまな資源が必要です。計画では、変更に際してこれらの資源が十分にあるかどうかを確認し、足りない場合はどのように確保するかを考えます。

資源が不足していると、変更の計画がうまく進まない可能性があります。

d) 責任及び権限の割当て又は再割当て

変更を行う際には、誰が何を担当するのかを明確にします。QMSでは、全てのタスクに対して責任を持つ人がおり、必要な権限を与えられていることが求められます。

責任と権限をしっかりと割り当てることで、計画がスムーズに実行され、目標達成につながります。

 

さいごに

ISO9001は、顧客満足の向上と組織の持続的な改善が行うことができるシステムです。ISO9001をうまく活用することで、企業や組織はその競争力を高めることができるでしょう。

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